相続

内縁の配偶者が死亡した場合における不動産相続事例

1.内縁の配偶者とは

内縁とは、婚姻の成立要件である婚姻の届け出(民法739条参照)がないために法律上の夫婦とは認められないものの、当事者の意識や生活実態において、事実上夫婦同然の生活をする男女関係を指すものです。

婚姻届出が行われない事情は様々ですが、法律上の婚姻障害(婚姻適齢、待婚期間、重婚的内縁、近親婚に当たる内縁など)がある場合、単に婚姻の届け出が遅れている場合のほか、最近では、届け出をしないことに当事者がそれ相応の意味を認めている(主体的・意識的に婚姻の届け出を行わない)場合も増えているといった指摘もあります。なお、「内縁」と「事実婚」を別の概念として捉える考え方もありますが、ここでは区別せずに「内縁」という用語を用いたいと思います。

 

2.内縁と相続権

内縁の配偶者と認定された場合の法的効果としては、①社会保障の分野(遺族厚生年金や労働災害の遺族補償、遺族補償年金)などで法律上の夫婦と同様の権利が認められることが明記されているものがあるほか、②判例等でも貞操義務や相互扶助義務などの身分的効果、婚姻費用の分担などの財産的効果について一定の範囲で認められています。

他方、内縁の配偶者に相続権は認められていません。

民法では「配偶者」は常に相続人となる旨が記載されていますが、これはあくまで法律上の配偶者を指しており、事実上の婚姻関係すなわち内縁は含まれません。立法論としては、「内縁の配偶者にも一定の相続権を認めるべき」という考え方は根強くありますが、近時の相続法改正でもこの点は盛り込まれませんでした。

 

3.家族から家の明け渡しを要求された場合、明渡義務があるか

内縁関係だった男性の持ち家に長らく同居していたものの、その男性が事故で亡くなり、遺言書も作成されていませんでした。このような状況で、内縁関係にあった女性は、男性の相続人である弟から退去や明渡しを求められた場合は、これに応じなければならないでしょうか?

この点、法律上の配偶者であれば、具体的な相続分は家族構成によって異なるものの、常に相続人となります(民法890条)。したがって、共有持分権者として占有権原を有することになりますので、少なくとも直ちに退去義務を負うことはありません(ただし、単独で使用する場合は他の相続人との関係で別途清算が必要です)。

これに対し、内縁の配偶者については、前記の通り相続権が認められていません。したがって、不動産を相続した法定相続人との関係では、原則として明渡しの求めに応じる必要があります。

なお、法定相続人から内縁配偶者への明渡請求は権利の濫用にあたるとされた判例があります(最高裁昭和39年10月13日第三小法廷判決)。この判例は、相続人(養子ですが、離縁に向けて協議が進んでいたようです)側において建物を使用する差し迫った必要性がない一方、内縁配偶者側は子らが独立して生計を営んでおらず家計上の負担が大きいといった個別の事情のもとで、相続人による建物明渡請求を「権利の濫用」としたものですが、この判断はあくまで個別具体的な事情を考慮したもので、あまり一般化して考えるのは危険です。上記判例も、傍論で「本訴請求を権利の乱用として許されない旨判断したからといって…本件建物に居住しうる権利を容認したものとはいえない」としており、あくまで原則は明渡義務がある、ということを念頭においてください。

 

4.内縁における遺言書の重要性

前記の通り、いかに内縁の配偶者として婚姻生活の実態が整っていたとしても、相続の場面では相続人の権利が優先されるのが原則です。2018年7月に相続法の大幅改正がなされ、配偶者居住権や特別寄与料といった新しい制度が創設されましたが、いずれも内縁の配偶者は対象外であり、相続の場面ではあくまで「他人」であると考えられています。

したがって、内縁関係の場合は事前に自らの死後について「遺言書」を作成し、配偶者が想定外の状況に追い込まれないよう、十分に準備を整えておくことが必要です。

これまで、自筆証書遺言は紛失や改ざんのリスクが高く、公正証書遺言は手間や費用がかかるといった問題がありました。この点、2020年7月から法務局による自筆証書遺言の保管の制度が開始され、法務局が本人確認と原本の保管を行ってくれるようになりました。公証役場と同じように相続人・受遺者等による検索も可能ですし、自筆証書遺言の場合に必要な家庭裁判所での「検認」も不要となりますので、自筆証書遺言の利用は今後増大すると予想しています。

ただし、法務局は「記載内容の妥当性」までチェックしてくれるわけではない点には注意が必要です。例えば、不動産の特定(財産目録の記載方法)が不十分だったり、「自宅を引き継ぐ」といった多義的な表現だったり、あるいは誤記があったりすると、せっかく手間や時間をかけて作成した遺言書が無駄になってしまうばかりか、かえって遺言書の解釈を巡る紛争を引き起こすことにもなりかねません。

 

5.まとめ

以上の通り、内縁の配偶者には相続権が認められず、原則として居住権などの法的保護も与えられていません。したがって、パートナーに法的保護を与えるには遺言書が有効な選択肢となります。

2020年7月に始まった「遺言書保管制度」は大変画期的な制度だと考えていますが、役所が全部対応してくれると考えるべきではなく、同制度のメリットデメリットを慎重に考慮しつつ、ご希望を叶えるためにはどういった遺言が適切なのか、弁護士や司法書士、税理士などの専門家へ相談・依頼されることを強くお勧めします。