相続

遺留分

遺留分の放棄について

遺留分について

人(以下、「Aさん」とします)が亡くなると、「相続」が発生します。財産のことに着目すると、Aさんが生前持っていた預貯金や不動産などの「プラス」と借金などの「マイナス」がありますが、これらの財産を、誰が、どのくらい引き継ぐか、ということについて、民法は一定のルールを設けています。そのルールのうち、Aさんは、たとえば「遺言」というルールを用いることによって、ある特定の人に自分が有していた財産をすべて引き継がせることができます。もっとも、それによって、不利益を被る可能性がある人も出てきます。

たとえば、Aさんには、夫Xさん、子Yさん、子Zさんがいたとし、Aさんは遺言で全財産をYさんに引き継がせることを決めていたとしましょう。Aさんが亡くなったことにより遺言の効力が生じ、Yさんに全財産が引き継がれることになりますが、XさんとZさんは、相続人(Xにつき民法890条、Zにつき同法887条1項)ですから、本来、一定の割合分、財産を相続する権利を有していました。しかしながら、Aさんの遺言によって、この権利が侵害されることになってしまいます。このとき、遺言によっても一定割合については、相続人の一部(「遺留分権利者」といいます)に金銭によって回復する権利(「遺留分侵害額請求権」といいます)を認めるものが「遺留分」です。

遺留分の放棄

このように、相続人の一部について特別に認められたものが遺留分なのですが、法律は、家庭裁判所の許可を受けた時に限り、遺留分を事前に放棄することを認めています(民法1049条1項)。

⑴ 誰が放棄することができるのか

遺留分を放棄することができるのは、遺留分を有する第一順位の推定相続人に限られます。たとえば、先ほどの例で、Aさんに、父Bさんがいたとします。Bさんも推定相続人(民法889条1項1号)ですが、先ほどの例では、Xさん、Yさん、ZさんがBさんよりも優先的に相続人になります(民法889条1項)から、Bさんは遺留分の放棄をすることができません。

⑵ 効果

遺留分を放棄した推定相続人は、被相続人が死亡した後に遺留分侵害額請求をすることができなくなります。そのため、相続人間においては、被相続人死亡後に相続人間での財産の分割について、無用な紛争を避けることができます。

なお、遺留分を事前に放棄した推定相続人は、被相続人死亡後、相続人としての立場を直ちに失うわけではありません。そのため、財産は一切取得できなくなりますが、債務は承継することになります。この点には注意が必要です(後記3「相続放棄との違い」参照)。

また、遺留分の放棄は、他の共同相続人には何ら影響がありません(民法1049条2項)。たとえば、先ほどの例で、Xさんが遺留分の放棄をしていたとします。遺言によりAさんの全財産を相続することになったYさんに対して、Zさんは、遺留分侵害額請求権を行使することができます(8分の1)が、Xさんが遺留分を事前に放棄していたとしても、Zさんの遺留分が増える、というわけではないので、注意が必要です。

⑶ 具体的な手続

遺留分の放棄をするためには、先ほど述べたとおり、家庭裁判所の許可が必要になります(民法1049条1項)。これは、遺留分の放棄が、法律上相続人に認められている遺留分という固有の権利を被相続人がなくなる前に放棄するという、極めて重要な意思決定に関わることだからです。

具体的な手続についてです。まず、被相続人の住所地の家庭裁判所に申立てをします(家事事件手続法216条1項2号。申立てには、必要な書類が複数あります)。その後、家庭裁判所からは、申立人と被相続人それぞれに宛てて、家庭裁判所から、その申立てが自らの意思に基づくものかどうかなどの調査のための簡単な書類が届きます。家庭裁判所は、その回答内容を見て、遺留分の放棄の申立てを認めるかどうかの判断(審判)をします(家事事件手続法39条、同法別表第1(110の項))。

許可が認められなかった場合には、申立人に限り、その審判を不服として、即時抗告をすることができます(家事事件手続法216条2項)。

⑷ 注意点

ア 放棄させることはできない

すでに述べたとおり、遺留分の放棄は、法律が相続人に対して認めた相続人固有の権利ですから、これを事前に放棄することは、その相続人にとって極めて重要な意思決定になります。そのため、遺留分の放棄は、自分の意思に基づいて行われる必要があります。家庭裁判所が遺留分の放棄の許可をする前に調査をすることは、この観点から位置づけられます。

たとえば、被相続人であるXさんが亡くなる前に、YさんがZさんに対して、遺留分の放棄を無理に強いることはできません。

イ 相続人であることは変わらない

また、遺留分を放棄したとしても、相続人であることには変わりません。たとえば、Aさんが遺言を作成せずに財産を残して死亡した場合には、遺産分割協議をする必要があります。このとき、Yさんが遺留分を放棄していたとしても、Yさんは相続人としての立場は変わりませんから、遺産分割の当事者になります。

なお、ここで重要なのが、遺留分の放棄は、あくまでも、財産の放棄であって、債務の放棄はできない、ということです。たとえば、Aさんには多額の借金があり、その返済がなされることなく死亡した場合には、Yさんが遺留分の放棄をしていたとしても、その借金を(法定相続分について)引き継ぐことになりますから、注意が必要です。

相続放棄との違い

いま述べたとおり、遺留分の放棄をしたとしても、相続人としての立場がなくなるわけではありません。そのため、遺産分割が必要な場合には遺産分割手続に当事者として関与する必要がありますし、また、遺産の中に債務があれば、債務を引き継ぐことになります。債務の引き継ぎもしないで済むようにするためには、被相続人が死亡した後、相続放棄(民法915条)の手続をする必要がありますので注意が必要です。

おわりに

遺留分の放棄は、相続手続の中でも特殊な類型に当たります。そして、これをすると、相続人として有する権利を失うことになります。申立てをする前に、まず私ども弁護士にご相談ください。

また、申立てにあたって必要な書類もあります。手続の方法を含めた具体的なことも合わせて、お気軽にご相談いただければと思います。

私どもの事務所では、相続事件に関して多数の経験があります。お困りのことがございましたら、ぜひ、ご相談ください。

 

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この記事の著者

  • 大瀧 佳孝

    弁護士

    中村 優介

    出身地:福岡県出身、愛媛県育ち
    出身校:東京大学法科大学院卒
    力を入れている分野:
    一般民事事件を中心に、刑事事件、少年事件を含めて幅広く取り組んでおります。
    特に注力しているのは、働くことにまつわる分野(労働、社会保障)です。どんな人でも、少しでも安心して働き、暮らすことができる社会の実現を目指しながら、仕事をしています。
    メッセージ:
    どんな些細なことでも、お気軽にお話しください。
    少しでもお気持ちが楽になるよう、精一杯、お手伝い致します。

    出身地:福岡県出身、愛媛県育ち
    出身校:東京大学法科大学院卒
    力を入れている分野:
    一般民事事件を中心に、刑事事件、少年事件を含めて幅広く取り組んでおります。
    特に注力しているのは、働くことにまつわる分野(労働、社会保障)です。どんな人でも、少しでも安心して働き、暮らすことができる社会の実現を目指しながら、仕事をしています。
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