相続

遺留分

生前贈与と遺留分侵害額請求

生前贈与と遺留分侵害額請求

遺留分とは?

『遺留分』という言葉をご存じでしょうか?

普段、あまり聞きなれない言葉かと思います。

遺留分は、皆さんに馴染みの深い言葉である『相続』、『遺言』や『生前贈与』に深く関連した言葉です。

遺留分とは、一般的に「相続人の生活保障や推定相続人の相続への期待を保護する為、一定の遺族に留めおくべき相続分」と言われています。

・・・なんだか難しい文章でよくわからないですね。

イメージが沸くよう、具体例でみてみましょう。

Aさん(78歳)にはその死亡時、妻のBさん(65歳)、娘のCさん(34歳)がいました。

Aさんは晩年、妻のBさんと喧嘩ばかりしており、良好な関係とは言えませんでしたが、歳の離れた娘のCさんのことはとってもかわいがっていました。Cさんも自分をかわいがってくれるAさんが大好きで、自分に厳しいBさんのことをよく思っていませんでした。

Aさんの死亡後、Aさんの自宅から遺言書が見つかりました。

その遺言書には次のように書かれていました。

「私(A)の全財産を、Cに相続する。」

さて、この状況で、とっても困るのは、Bさんです。

Bさんは、Aさんの生前、Aさんと生計をともにしていましたが、不動産(4000万円)の名義も、生活に必要な預貯金(2000万円)も、すべてAさんの名義になっていたので、Bさん個人の財産は雀の涙ほどしかありません。

このままでは、Aさん名義の不動産、預貯金は全てCさんにもっていかれてしまいます。

Bさんはとても生活していけません。

Bさんになにか打つ手はないのでしょうか。

ここでBさんを守ってくれるのが、『遺留分』という概念です。

国は、上記のような状況で、Aさん名義の不動産・預貯金を生活の拠り所にしていたBさんが当面の間生活をしていけるよう、BさんがCさんに対して、法律によって定められた金額(上記の例では、1500万円)を支払うよう請求できる権利をBさんに与えました。

これが、『遺留分侵害額請求』という制度です。

遺留分侵害額請求ができる人は?

それでは、遺留分侵害額請求をできる人(これを、遺留分権利者といいます。)は、誰なのでしょうか。

相続財産をもらえなかった相続人であっても、誰しもが請求できるわけではありません。

法律に定められた、遺留分権利者は下記の人たちです。

  1. 配偶者
  2. 直系卑属(子や、子が既に亡くなっている場合の孫等)
  3. 直系尊属(親等)

※ただし、遺留分権利者になれるのは、相続人のみです。被相続人に直系卑属がいる場合は、直系尊属は、相続人とならない為、当然に遺留分もありません。

相続人となり得る人達の中で、兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している場合の、甥、姪)にだけは、遺留分がありません。

これは、遺留分が『相続人の生活保障』を第一の目的とするところ、国は、「配偶者、親子の相続財産を生活のあてにするのは仕方ないが、兄弟姉妹の相続財産にまで頼ろうとするんじゃない」と考えたためです。

遺留分侵害額請求と(生前)贈与

さて、遺言によって、本来もらえるはずであった相続財産(の一部)をもらえなかった相続人には遺留分侵害額請求という手段があることがわかりました。

それでは、この遺留分侵害額請求の対象となる財産についてみていきましょう。

この財産は、被相続人の死亡時に被相続人が保有していた財産に限られるのでしょうか?

先ほどのケースで仮にAさんが死亡の直前(1か月前)、全財産を新興宗教団体Sに贈与していた場合、Aさんの死亡時には、Aさんには一切財産がありません。

この場合、BさんとCさんに打つ手はないのでしょうか。

実は、上記のケース、BさんとCさんは、新興宗教団体Sに対して遺留分侵害額請求権を行使して、「それぞれに対して1500万円ずつ支払え」ということができるのです。

これは、Aさんが生前に行った贈与について、死亡日から遡って1年以内のものについては、その贈与した価額を遺留分侵害額に計上すると定められている為です。

死亡日から遡ってずっと前に行った贈与まで遺留分侵害額請求の対象になるとすると、迂闊に人から贈与なんて受けられなくなってしまうので(ずっと昔にもらって今は手元にないお金を返せと言われても困る)、原則、死亡日から1年前までに受けた贈与だけを対象としています。

これが、原則ですが、例外が2つあります。

1つは、贈与した人と贈与を受けた人の双方が、その贈与のとき、遺留分権利者に損害を与えることを知っていたのに贈与が行われたときです。

遺留分権利者が苦しい生活を強いられると知って贈与を受けた人を保護する必要はありません。

もう1つは、贈与を受けた人が相続人の場合です。この場合は、死亡日から遡って10年以内に行った生前贈与について、その贈与した価額を遺留分侵害額に計上することができます。ただし、こちらは、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限られます。(家族の間では、ちょこちょことしたお金の受け渡しはしょっちゅうあるので、それを全部対象とするととても金額を特定できないからという理由です。)

このように生前の贈与も遺留分侵害額請求の対象となる場合があります。

遺留分侵害額請求の方法と注意点

遺留分減殺請求は、遺留分権利者が、相手方に対して、請求権行使の意思を表示することによって行使します。

裁判を利用して行使することもできますが、裁判を利用せずに行使することもできます。(裁判を利用しない場合、通常は、内容証明郵便によって行使します。)

大事な注意点が一点あります。

それは、行使できる期間が法律によって定められていることです。

相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。

と規定されています。

上記のとおり、行使できる期間が限られているので、何もせずにじっとしていると、権利は消滅してしまうので、十分にご注意ください。

最後に

実際に遺留分侵害額請求をする場合、「いくら請求できるのか?」「請求する相手は誰なのか?」等、複雑な部分が多々あります。

こういった部分は、解説書を読んでも理解するのが難しいので、是非法律の専門家にご相談下さいませ。

最後までお読みいただきありがとうございます。

この記事をシェアする

この記事の著者

  • 司法書士法人中央法務事務所 長村政孝

    司法書士

    長村 政孝

    当事務所は長い歴史を持つ司法書士事務所です。開業以来、2,000件以上の相談実績があり、数多くのトラブルを解決してきました。
    相続手続き、成年後見登記に対応。行政書士法人、土地家屋調査士法人も併設しているので、金融機関の相続手続きや不動産の所有権移転登記も対応できます。

    当事務所HP
    http://www.chuoh-h.co.jp/

    当事務所は長い歴史を持つ司法書士事務所です。開業以来、2,000件以上の相談実績があり、数多くのトラブルを解決してきました。
    相続手続き、成年後見登記に対応。行政書士法人、土地家屋調査士法人も併設しているので、金融機関の相続手続きや不動産の所有権移転登記も対応できます。

    当事務所HP
    http://www.chuoh-h.co.jp/