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生活保護受給者でも成年後見は利用できる?

「母親には法的な支援が必要だけど、私自身生活保護を受給していて、お金に余裕はないし、具体的に手続きを進めるとして何から手を付けていいか分からない」

このように成年後見の利用が望ましいと思われる場合でも、専門職へ依頼した際の報酬や、実費費用の支払いへの不安から相談や申立てを躊躇されてしまうケースがあります。最高裁判所事務局家庭局が毎年発表している「成年後見関係事件の概況」によると平成31年1月から令和1年12月までの1年間でおよそ3万6,000件の後見等申立がなされました。また、後見制度発足以来、約22万人以上の方が、何かしらの理由により後見等申立を行っています。しかし、内閣府が発表する「65歳以上の認知症患者の推定者と推定有病率」によれば、令和2年時点における認知症患者の推定者は600万人に上り、今後ますます人数は増えていくことが予想されています。後見制度の利用者は認知症の方に限られませんが、仮に上述の数字が認知症の方だけであると仮定しても、およそ27人に1人しか後見制度を利用していないことになります。実際には、保佐・補助・任意後見を含んだ利用者数になるので、多くの方が認知症になっていても後見制度を利用していないということです。このような状況を受け、国は平成28年に成年後見制度利用促進法を施行し、成年後見制度の利用を促進するために、各市区町村に対し5年以内に地域連携ネットワークを構築するための中核となる機関(中核機関)を設置することを義務付けました。専門職(弁護士・司法書士等)・親族による後見のほか、社会福祉協議会による法人後見(法人が後見人等に選ばれること)、市民後見などの制度・社会基盤を利用し、行政も含めた横のネットワークを作ることで、誰もが安心して生活できるよう取り組みが始まったところです。冒頭のように生活保護を受給されている方、老後資金に不安を感じる方にとっても成年後見制度が今後どのように利用されていくかは関心の深いところだと思います。

この記事では、成年後見制度を取り巻く環境・制度についてご紹介いたします。

参考:成年後見関係事件の概況 裁判所

65歳以上の認知症患者の推定者と推定有病率 内閣府

 

成年後見の申立要件

成年後見制度を利用するには、本人の住所(又は居所)を管轄する家庭裁判所に対して、後見(保佐・補助)申立をする必要があります。申立をすることができるのは、本人、四親等内の親族、後見人等、検察官、市区町村長(首長)です。申立にあたっては、書類の準備が必要です。最近では「おひとりさま」という言葉があるように、身寄りのいない方もいらっしゃるでしょう。そのような方でも本人が後見申立てをすることはできる訳ですが、認知症になってしまったときに自分自身で申立てをするというのは中々大変なことだと思います。そういった場合は、地域包括支援センターや民生委員を通してお住いの市区町村の高齢福祉課等が関与し、首長申立てを行うことになります。しかし、在宅で生活をするには不安も多いと思うので、日頃からご近所の方と交流を図ったり、場合によっては将来、認知症にかかった場合に備えて、専門職等と任意後見契約を結び、サポートしてくれる方を選んでおくといいかもしれません。

参考:成年後見等申立て 横浜家庭裁判所後見係

 

成年後見申立にかかる費用

後見申立を検討する際に、気になる費用についてですが、後見制度を利用するにあたり掛かるお金がいくらになるかは重要な関心事だと思います。手続きの進め方によって大きく異なりますが、①専門家に依頼をすると掛かる報酬、➁ご自身で手続きをしても掛かる実費費用に分かれます。報酬については、どこにお願いするかにより金額も異なりますが、司法書士であれば8~15万円(税別)、弁護士であれば20~30万円(税別)というのが一般的なところだと思います。実費費用については、診断書の取得費、申立収入印紙、切手、戸籍の取得費用などがありますが、多くは1万5,000円程度あれば足りるでしょう。

なお、裁判所の判断により申立時に提出した診断書では不十分となれば、本人の判断能力を確認するため、鑑定という手続きを行うことがあります。後見・保佐申立では原則必要とされていますが、診断書の病名により不要とされることが多いです。鑑定が必要になる場合は追加で5~10万円の費用が発生します。

まとめると、専門家には頼まずに申立てをする場合、実費費用は1万5,000円程度、しかも本人以外が申立てた場合は、費用を本人負担とすることができるため、実質的に費用はほとんど掛からないことになります。一方、専門家に依頼した場合、実費費用は同じくほとんど掛からないのですが、報酬額については申立てをした方が負担することになります。つまり8万円~30万円(税別)の報酬を申立てた人が支払わなければならないということです。この部分が申立てをする際にネックになっていると感じますし、事実、遠縁の親族などが協力をしてくれない理由にもなっていると思います。親族が協力してくれない場合は、首長申立てを検討することになるでしょう。

 

成年後見申立費用の援助

専門家に依頼をするとなれば、上記のように最低でも税別で8万円以上の報酬が発生する訳ですが、高額の費用を一括(事務所によっては分割払い可)で支払うのは中々大変だと思います。一括払いが難しい場合、一定の要件(資産・収入)を満たしていれば、法テラスの「民事法律扶助」を利用することができます。この場合、月々5,000円(最大3,000円)の分割払いが可能なので、安心してご利用いただくことができます。法テラスの利用を検討される際は、法テラス契約弁護士・司法書士へご相談いただくのがよろしいかと思います。なお、生活保護を受給されている方が申立てをする場合、法テラスへの支払いを一部又は全部免除される償還免除を受けられることがあります。ただし、本人申立てにおいては法テラスとの契約が結べないとの理由から、利用をすることができないため、詳細については、最寄りの法テラスへご相談されるといいでしょう。

参考:民事法律扶助 法テラス

 

専門職後見人等への報酬助成

晴れて申立てが完了すると、裁判所が申立書類を確認し、調査官面接が実施され、本人の状況確認などが行われます。申立てにあたっては、後見人等となる人を候補者として決めておくことができますが、誰を後見人等に選ぶかは裁判所の専権事項とされているため、申立人の意図に反し、家庭裁判所にある登録名簿から専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士)が後見人等に選ばれることがあります。当然ながら、専門職が後見人等に選ばれると、後見業務をするにあたり、報酬が発生することになります。報酬は本人の保有資産・後見人が行った業務に比例しますが、2~5万円程度というのが一般的だと思います。報酬は本人の資産から支払われることになりますが、本人があまり資産をお持ちでないケースでは、報酬が助成されることがあります。①「成年後見制度利用支援事業」は、後見人の報酬を市区町村が負担してくれることもので、在宅であれば28,000円、施設入所であれば18,000円を助成するという制度です。金額は市町村により異なるかもしれないですが、利用できる場合は、後見人等の報酬を本人が払えなくても大丈夫ということで、ご安心頂ける制度だと思います。ただし、市区町村によっては、首長申立てに限り支援するとなっているケースもあり、利用できないことがあるため、詳細はお住いの市区町村へご確認ください。➁「公益信託成年後見助成基金」は公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートが設けた制度であり、要件に該当すれば、最大5年分の報酬助成を受けられます。

参考:成年後見人等の報酬額のめやす 横浜家庭裁判所

成年後見制度利用支援事業 海老名市

成年後見助成基金 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート

 

成年後見制度の今後の展望

前述のとおり、国が成年後見制度利用促進法を施行したことで、各市区町村において、中核機関の設置が急務となり、市民後見人・法人後見人の育成・選定が喫緊の課題となっています。制度の促進を図っても、いざ利用する際に、後見人となってサポートをしてくれる人が少ないのでは意味がありません。

資産が少ないことで後見制度が利用できないといった社会格差が生じないよう、社会全体で後見制度の利用を促進し、困った人を守っていこうという流れが起こっているのだと感じます。

 

当事務所では、親切・迅速・丁寧を理念として、相談者の方にとって分かりやすい相談を心掛けております。民事裁判に関する相談を除き、初回相談料は一切いただいておりませんので、お近くにお住いの方は、気軽にご相談をいただけたらと思います。

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この記事の著者

  • まちの司法書士事務所 篠原 康史

    司法書士

    篠原 康史

    私たち「まちの司法書士事務所」は法律の専門家として、難解な法的手続きをサポートすることはもちろん、みなさまの身の回りの問題を解決へと導く手助けの役割も担っています。

    地域の人と人のつながりをより良くすること、それがが私たちの目標です。

    お気軽にお問い合わせください。
    当事務所HP:https://shihou.machi-no.com/

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