任意後見制度

任意後見制度とは?成年後見制度との違いやメリット・デメリットを解説

近年、葬儀や相続など、自分の人生の最期を生前に準備する「終活」を行なう方が増えています。ですが、認知症などになってしまってからですと、判断能力が低下したり意思疎通がうまくいかなくなったりして、十分に自分の意思を伝えられなくなってしまいます。

そのような場合に備えるためには、どのような対策があるのでしょうか?

今回は、よく耳にする「任意後見制度」について、似たような言葉の

成年後見制度」との違いなども合わせて、詳しく見ていきたいと思います。

任意後見制度とは?

認知症などになってしまうと、契約といった行為ができないし、通帳などの管理も難しくなってしまいます。そういった時のために任意後見制度というものがあります。

任意後見制度は、本人がまだ元気なうちに、将来自分の判断能力が低下してしまった時に備えて、自分の財産を将来誰に管理してもらうか、事前に契約で決めておく制度です。

この後見事務を請け負う人を任意後見人といい、この任意後見人を監督する人を任意後見監督人といいます。任意後見監督人は、家庭裁判所によって選任されます。

任意後見制度、成年後見制度それぞれの違いは?

任意後見制度に言葉の響きが似ている制度で、成年後見制度(法定後見)があります。

それぞれどのような違いがあるのでしょうか?

成年後見制(法定後見)とは、判断能力にすでに影響が出てしまっている場合(判断能力が少し衰えているとかだいぶ衰えてしまっているなど)に選択できる制度です。周りの人から見て、判断能力が著しく低下しているなと思えるときには、前述の任意後見制度は選択できません。ですから、後見制度を利用しようと思った時に、判断能力がある場合は任意後見制度を選択し、その時点で判断能力がない場合には、法定後見制度(法定後見)を選択することになります。

 

任意後見制度との違いとしては、任意後見制度では、まだ判断能力がある時なので、自分が選んだ信頼できる人を後見人にできますが、法定後見制度では、その時すでに判断能力が低下しているので、後見人は自由に決められず、家庭裁判所で選ばれた人が後見人になります。任意後見制度では代理権の範囲を自分で自由に幅広く決められます。

 

ですが、一方で、成年後見制度(法定後見)には任意後見制度にはない取消権があります。例えば、高額な商品を買ってしまったりしたとき、成年後見制度(法定後見)では取消権が後見人に与えられているのでその行為を取り消すことができますが、任意後見制度では取消権がないので取り消すことはできません。

任意後見制度のメリット・デメリット

任意後見制度にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

任意後見制度のメリット

任意後見制度のメリットとしては、本人の希望に沿った制度に自由に設計しやすいというところです。判断能力が低下していないうちに契約するので、本人が信頼できる人を後見人に選べますし、契約内容も自由に決められます。ちなみに、後見人になるには特別な資格は必要なく、親族はもちろん、信頼できる第三者でもなることができます。

また、後見人には毎月必ず報酬が発生することになりますが、その報酬額も自由に決めることができます。

さらに、契約内容が登記されますので、任意後見人に選ばれた人はその地位を公的に証明されることになり、役所や銀行での手続きの際、話がスムーズに進みやすくなるのもメリットの一つといえるでしょう。

任意後見制度のデメリット

代表的なデメリットは3つあります。

1つ目は、先ほども触れましたが、取消権がないことです。

本人が悪徳商法に引っかかるなどして、不要な高額の商品などを買ってしまった時に、任意後見人が本人の行為を取り消して、その契約をなかったことにすることはできません。成年後見(法定後見)人であれば、取消権が認められていますので、このような場合でも契約を取り消すことが可能です。

そういう意味では、取消権のない任意後見制度は十分とは言えず、成年後見制度(法定後見)のほうがしっかりと本人の財産を保護できるといえるでしょう。

2つ目のデメリットは、任意後見制度は本人の死亡と同時に契約が終了することになっているため、本人が亡くなった後の事務や財産管理を後見人にお願いできません。

成年後見(法定後見)であれば、必要であれば、本人が無くなった後も引き続き、残った財産の管理などを行うことができます。

任意後見制度では、あくまでも本人の生存中の財産管理に限られています。ですから、それらを任意後見人に依頼したい場合は、任意後見制度のほかに「死後事務委任契約」という別の契約を結んでおかなくてはなりません。

3つめのデメリットは、利用開始のタイミングを見極めるのが難しいことです。

任意後見制度は、契約締結時は本人の判断能力に問題がない時ですが、実際にその効力が発生するのは本人の判断能力が低下した時点となるため、時には年単位の時間差が存在します。そのため、本人と後見人の接点があまりないと、本人が実は判断能力が低下しているのにそのことに気づかず、せっかく契約を結んでいるのに、その効力を発効させるタイミングを見失うリスクがあります。そうならないために、任意後見制度と抱き合わせで、「見守り契約」というようなものを結んでおいて、月に一回面談するなど定期的に会う機会を設けるなどをしておくとよいでしょう。

任意後見制度には3種類の型がある。即効型・将来型・移行型、それぞれの特徴は?

任意後見制度には、即効型・将来型・移行型の3種類の型があります。この中でよく使われているのが移行型で、一般に任意後見制度といえば、この移行型をさすことが多いです。

それぞれのタイプの特徴は次のとおりです。

① 即効型

任意後見制度を締結後すぐ、家庭裁判所に任意後見監督人の申立てを行なうものです。契約時にすでに判断能力が低下し始めていて、すぐに任意後見を開始したい場合に選択されます。この場合、そもそも任意後見制度を結んだ際にすでに判断能力が低下しているという事実が存在するので、任意後見制度契約自体が無効なのではないかといった揉めごとが起こりやすいというリスクがあります。

② 将来型

任意後見制度では通常、見守り契約・任意代理契約・任意後見契約・死後事務委任契約という類型が含まれているのですが、将来型では、任意後見契約のみを締結して、判断能力が低下してから任意後見人に保護してもらうというものです。この場合、先述のとおり、契約を結んだけど契約発効のタイミングに気づいてもらえないというリスクがありますので、月一回面談するとか電話するなどの見守り契約との抱き合わせでケアしていくことも多いです。

③ 移行型

もっとも使い勝手がよく、任意後見制度の良さを発揮できる型で、上記の見守り契約・任意代理契約・任意後見契約・死後事務委任契約を抱き合わせで契約することで、元気なうちからケアしてもらってそのままスムーズに任意後見制度に移行できるものです。

任意後見制度利用の流れ

それでは、任意後見制度を利用するには、どのような手続きが必要なのでしょうか?その流れや必要書類など確認していきましょう。

手続きの流れ

手続きは次の5ステップからなります。

① 任意後見受任者を決める

任意後見人になってくれる人を決めます。任意後見人にあるためには資格は必要ありません。家族・親戚、友人・知人、弁護士・司法書士のほか、法人と契約を結ぶことも可能です。1人とは限らず、複数人でも構いません。ただし、次の条件に当てはまる人は任意後見人になることはできません。

・未成年者

・家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人またはその補助人

・破産者

・行方の知れない人

・本人に対して訴訟をし、またはしたことのある者及びその配偶者並びに直系血族

・不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

② 任意後見人にしてもらいたいことを決める

任意後見人にどのような事務を依頼するかは、契約当事者同士の自由な契約になります。ですが、任意後見契約で委任できることは、財産管理に関する法律行為と介護サービス締結など療育看護に関する事務や法律行為のほか、それにかかる登記等の申請なども含まれます。契約内容を考える際には、将来どのような生活をしたいかという具体的な希望や金額などを記載したライフプランをまずは作成するとよいでしょう。例えば、身体が動かなくなったら○○施設に入所希望、かかりつけ医は△△病院、墓参りは年〇回希望などを具体的に記します。

③ 任意後見契約は公正証書で締結する

任意後見受任者、任意後見契約の内容が決まったら、本人と任意後見受任者の双方で、本人の住所の最寄りの公証役場に赴き、公正証書を作成します。事情により、本人が公証役場に行けない時には、公証人に出張してもらうことも可能です。

④判断能力が低下したら「任意後見監督人選任の申立て」を行なう

認知症の症状など、本人の判断能力の低下が見られたら、任意後見契約を開始し、本人の住所地の家庭裁判所で任意後見監督人選任の申立てを行ないます。

申立てができるのは、本人、本人の配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です。原則として、本人以外が申立てを行なう際には、本人の同意が必要となります。(ただし、本人が意志表示できない場合には必要ありません。)。

任意後見監督人に支払う報酬は、家庭裁判所が決定します。その額の目安は、管理財産額が5千万円以下の場合には月額1~2万円、5千万円を超える場合は月額2万5千~3万円となることが多いようです。これは法定後見監督人でも同様です。

⑤任意後見受任者は任意後見人になる

任意後見監督人の選任を申し立てた後、任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が発生し、任意後見監督人による監督のもと、任意後見人による支援が開始されることになります。任意後見人に支払う報酬額は、双方の契約の中で決めることで、専門職に依頼すると月額数万円ですが、親族との契約の場合には無報酬であることもよくあります。

これらの流れでかかる費用としては、基本的におよそトータルで20~30万円くらいです。

まとめ

任意後見制度は、元気なうちに自分の将来について備えをすることのできるもので、自分のライフプランを実現するのにとてもいい制度です。周りの家族や専門職も、この人はこういう意向を持っていたのだということがわかって接するのとそうでないのとではだいぶ差があるかと思います。遺言書などとセットで使うと非常に有用な生前対策になるのではないでしょうか?

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この記事の著者

  • 相田 紳太郎

    司法書士

    保坂 真世

    出身地
    神奈川県横浜市
    生年月日
    1985年03月08日
    保有資格
    司法書士 / 行政書士
    得意分野
    中小企業法務・相続・不動産売買
    大学在学中、会社の一員としてではなく個人として、人と向きあって一生続けられる仕事がしたいと想い、司法書士の資格を知り、志しました。平成21年に司法書士試験に合格後、横浜市内の司法書士事務所に勤務し司法書士業務を叩き込まれ、不動産登記・会社登記・相続・債務整理・裁判書類作成・遺産承継業務等、幅広く経験させていただきました。
    もっと依頼者に寄り添い、一歩踏み込んだ仕事がしたいと思い、平成26年、29歳のときに独立開業に至りました。平成28年には業務拡大に伴い、横浜市西区浅間町に事務所を移転し、平成30年、パートナー司法書士の相田が加わり、事務所を法人化、平塚支店を設置しました。
    コネなし、人脈なしでスタートした私が、多くの業務に携わり、事務所を発展させることができたのは、これまでに出会った全ての方に支えられてきたからです。
    沢山の方に頂いたご恩を還元できるよう、常に社会に必要とされるサービスを提供し続け、弊所と出会ったすべての方の幸せのために貢献したいと考えております。
    当事務所HPhttps://stardio.jp/

    出身地
    神奈川県横浜市
    生年月日
    1985年03月08日
    保有資格
    司法書士 / 行政書士
    得意分野
    中小企業法務・相続・不動産売買
    大学在学中、会社の一員としてではなく個人として、人と向きあって一生続けられる仕事がしたいと想い、司法書士の資格を知り、志しました。平成21年に司法書士試験に合格後、横浜市内の司法書士事務所に勤務し司法書士業務を叩き込まれ、不動産登記・会社登記・相続・債務整理・裁判書類作成・遺産承継業務等、幅広く経験させていただきました。
    もっと依頼者に寄り添い、一歩踏み込んだ仕事がしたいと思い、平成26年、29歳のときに独立開業に至りました。平成28年には業務拡大に伴い、横浜市西区浅間町に事務所を移転し、平成30年、パートナー司法書士の相田が加わり、事務所を法人化、平塚支店を設置しました。
    コネなし、人脈なしでスタートした私が、多くの業務に携わり、事務所を発展させることができたのは、これまでに出会った全ての方に支えられてきたからです。
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